泥沼通信

祭りの戦士 @ กลับมาจากกรุงเทพฯ

 

Category: 思想など   Tags: Thought  

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魂の労働

 『魂の労働』(渋谷望 著)という本を読んだ。bookloverさんのブログで紹介されていた本だ。近くの本屋で売っていたので、これも何かの縁だと思って買ってみたのだ。感想を言えば、想像以上に面白い本だった。

 「現在作動しつつある新しい権力ゲームの本質を見極めること」がこの本のテーマで、いわゆる「フォーディズム=福祉国家」から、「ポストフォーディズム=ネオリベラリズム」への権力形態の移行が、さまざまな場面において分析されている。一言で言えば、フォーディズムにおける大量生産に適合した、画一的、監禁的な資本主義権力の支配の戦略が、消費社会に適合したネオリベラリズムのソフトで、間接的なコントロールの戦略に移行した、ということである。この、労働者の内面に働きかけるソフトな支配の技術を、フーコーの権力論を援用し分析している。
 さらに、ネオリベラリズムのソフトな支配の戦略から逸脱する存在は、アンダークラスとでもいうシステムの周辺に排除、放置され、見せしめとして権力によって利用される。たとえば、日本で言えば、ホームレス、登校拒否やニートのようなマイノリティなんかがそれにあたる。
 なんというか、今まで漠然と感じていた実感を、うまく説明してくれたような気がした。なるほどフーコーの権力論はこのように利用するのだな、と思った。

 ところが、最終章の『<生>が労働になるとき』においては、逆にその排除されたアンダークラスの存在こそが、「ニヒリズム」の徹底という意味で、システムに対する自律的な抵抗の新しい形態を生み出す「可能性」を持つものとして描き出される。そのとき援用されるのはニーチェ、あるいはドゥルーズによるニーチェの解釈だ。
 この最後の章を興奮せずに読めるだろうか。もう、まさに僕が言いたかったことがそのまま書かれているようだった。特にニーチェの『道徳の系譜』第1論文(これについては去年ちらりと書いたことがある。)の善悪の価値判断の2つの起源論を援用し、排除されたアンダーグラウンドな存在の方を「肯定的な自己価値化」をおこなっている「自分の為し得ることの果てまで進んでゆく力」(ドゥルーズ)を持つ存在として描き、逆にネオリベラリズム(まあ、資本主義そのもののことだ)は、ルサンチマンを原動力とした「反動」の制度化だ、と言い切っているのを読むと手を叩きたくなってしまうほどだった。

 まあ、bookloverさんが、何だって僕との議論であれほど過敏な反応を示したのか今もって謎ではあるが、やはりその出会いは無意味じゃなかったってことだろうか。感謝しなくては………。(いずれにせよ、よく似た考えの持ち主のサイトが消滅してしまったのは正直さみしい。)

 僕がフーコーやドゥルーズの名前を知ったのはもう20年も前のことだ。当時、フランスのいわゆるポスト構造主義思想が紹介されトップモードのように流行していた。読んでみても一体何が書いてあるのかわからない分厚い本になんだか憧れを抱いていたものだ。……ただ、はっきり言って何を言わんとしてるのか意味がわからなかったのでそれほど関心もなかったし、彼らの本も実はほとんど読んだことがない。現代思想ブームに乗って浅田彰とか中沢新一なんかがスターだったけど、どうもうさんくさいなあ、と思っていたし、個人的にはもっと古い、ニーチェとかバタイユとか現象学なんかに親しみを感じていた。
 しかしあれから20年、フーコーもドゥルーズも死に、ガタリ、ついにはデリダもこの世の人ではなくなってしまった。長い時間をへて今になってやっと、僕と彼らの思想の接点が出てきたってことだろうか………この『魂の労働』の中に引用された彼らの言葉を読むと、似たようなこと考えてたんだなあ、と思うのだ。
 規律訓練だとか、微視的権力だとかbookloverさんが使ってた言葉を理解するためにも、チョットがんばってフーコーでも読んでみようかな、なんて思っている。

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プロフィール

荒井賢 (Ken Arai)

 住所 埼玉県越谷市
 生年月日 1964年2月15日
 職業 アニメーション背景制作
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