泥沼通信

祭りの戦士 @ กลับมาจากกรุงเทพฯ

 

Category: ニュース・時事など   Tags: Thought  

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「すいませんでした。」

 人間誰でもヘマするものだ。僕らだって一度や二度は決定的なヘマをやらかしているはずだ。それでも僕らが生き延びているのはひとえに幸運のおかげである。僕らの生は実に危うい均衡の上に成り立っている。未然にすべての危険を回避するなんてことはできっこない。香田さんの場合不幸にもその均衡は崩れてしまったのだ。軽卒だった、ナイーブ過ぎた、と言われればその通りだろう。しかし誰も彼がヘマしてしまったことを責めたり笑ったりできないはずだ。彼の運命は明日の僕たちの運命であるかもしれないのだ。

 しかしそれにしても気になるのは香田さんの両親のコメントでもまず「ご迷惑をおかけいたしました。」という言葉からはじまっていたことだ。本当に僕ら日本人は他人に「迷惑」をかけることを恐れるのだ。なぜかといえば日本社会はハプニングやイレギュラーな事態を忌避し、平穏、安定、安全な生活を基本的に志向しているからだ。
 前にも5人が人質になったとき書いたことなので詳しいことは省略するけど、自衛隊の派遣はそもそもが日本人の国際貢献という意志から発していることだったはずだ。(まあ自衛隊の派遣が果たして正しい選択なのかはともかくとして)それは日本人が閉ざされた島国での小さな安逸を捨てて、国際社会の混乱の荒波の中へ乗り出してゆくこと言う決意のあらわれれのはずだった。その決断は当然、国際社会の混乱にともなうリスクを日本社会の内部にも持ち込むことを覚悟してのことでなければならないのだ。

 であるにもかかわらず、相変わらず「迷惑をかけた」と被害者の家族が言わなければならない雰囲気というのは何なのだろう。やはり誹謗中傷のメッセージが香田さんの自宅に多数送られたという。政府の対応もどこか冷淡だったと感じたのは僕だけではなかっただろう。正直、香田さんの行動に「やれやれ困ったもんだ」とみんな思ってたんじゃないだろうか。
 もちろんテロリストの残酷な犯罪ということがまずあり、香田さんのあまりに軽率な行動があった。しかし自衛隊の派遣はイラクで民間人を何万人も殺害しているもう一つのテロ国家アメリカの側に日本はついている、とテロリストに理解させる選択なのだ。この選択が人質事件を引き起こさせる遠い原因である。つまり自衛隊を派遣する以上、僕ら日本人はみな、この選択によって被る(日本国内でのテロも含めて)あらゆる危険な可能性をも受け入れ、覚悟していなければならないということだ。

 したがって僕らはなにかヘマをやらかした人によって巻き込まれた今回のような事態を受け入れ、万全の対処しなければならない。それこそ人と税金を総動員して………。そういう選択を日本人はしたのだから………。「迷惑なことをしてくれた」などと考えるのはスジ違いなのだ。
 なのにこの人質事件を「迷惑」と感じたとすれば、日本人はやはり波風立たない安逸の中で暮らしてゆきたい………国際貢献なんて言ってるけど本当のところは今まで通り島国の中で平和にやってゆきたいと思ってるからではないだろうか。………それだったらやっぱり自衛隊なんか派遣しないほうがいいのじゃないか。そうすればテロの標的にもならないだろう。国際貢献なんてやめちまえ! それともそうしてしまったらアメリカのご機嫌を損ねてしまうってことだろうか?
 
 まあそれはおいとくとして、香田さんの「死」である。無意味に殺されるという結末を迎えた彼の行動を「間抜け」「平和ボケ」「世間知らず」呼ばわりし、その「間抜け」さゆえにみんな大迷惑を被ったんだ、と言う人にひとこと言っておきたいのは、彼の「甘さ」「平和ボケの脳天気さ」というのはまさに日本社会によって育まれているということだ。お互い「迷惑」をかけないで波風たてない平穏を至上の価値とする「なまぬるい」日本社会によって育まれたがゆえに、危険かつ生き馬の目を抜くような環境の中で、状況を冷静に判断する動物的な勘みたいなものが鈍ってしまったんだ。戦場を前にして香田さんのとった無謀な感性と判断は、お互い「迷惑」をかけることをいやがる「なまぬるい」僕らの社会が生んだに違いないのだ。
 つまり香田さんの「間抜け」な姿に、僕ら日本人は鏡に映された自分自身の姿を見ているのだと思う。だからこそ香田さんの無様な姿を腹立たしく思うのではないだろうか。あれはあなたの、そして私自身の姿なのではないだろうか。

 「すいませんでした。」と香田さんは述べた。彼は一体誰に、何を詫びたんだろう。普通に考えれば映像を見るであろう日本人すべてに対して、自分が迂闊であったこと、そして彼のしでかしたことで日本中が大騒ぎをするだろうことに対して詫びたのだろう。自身の生命の危機を前にしながら、以前殺害された韓国人のように大声で助命を願うでもなく、みんなに「迷惑」をかけたことをそっと詫びて、日本へ帰りたいと控えめに希望を述べるにとどまった………。(たぶん英語ではsorryとは言ってないんじゃないかな?)
 だとしたらまったく香田さんは日本人じゃないか………日本的ないいやつなんじゃないか? そう思えてきた。

Comments
 
香田さんの遺品は死海の石と紙ナプキンだったそうです。
多くのものを手ばなせないまま死んでいく、政財界の人なんかよりも人間らしいのかもしれません。
また、「平和ボケ」ですが、私は保守派こそ「平和ボケ」なんだと思っています。
敗戦で失った時に気がついた、多くの命の大切さを、日本が平和であるがゆえに「ボケ」てしまって忘れてしまったんですから。
 
きっとそうですね。そういう人たちは戦争中「国のために死ね。」といってたんですよ。
 
はじめまして、TBどうもです。
鏡の話、なるほどと思いました。

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荒井賢 (Ken Arai)

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 職業 アニメーション背景制作
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