泥沼通信

祭りの戦士 @ กลับมาจากกรุงเทพฯ

 

Category: 旅行・タイなど   Tags: Thought  Thai  

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サヌックとサバーイ

 少しでもタイに詳しい人なら、サヌック(楽しい)とサバーイ(気持いい)というタイ語を聞いたことがあるんじゃないだろうか? タイ人を理解する上でキーワードとなる言葉である。どちらも快楽を意味するわけだが、もう少し厳密に言うならサヌックは刺激的で興奮をともなうどちらかといえば精神的な快楽であり、サバーイは快適、安楽であるというやや肉体的な快楽であると定義できるだろうか………。もうひとつサドゥワック(便利だ)という言葉を加えてタイ語の「3S」だなんていったりする。
 タイ人の人生哲学は、ほぼサヌックとサバーイという言葉につきるのではないかと思う。タイを旅行した人はわかると思うんだけど、実にタイは居心地がいい。悪名高いインドや中国に較べると旅行地としては天国だといってもいい。メシがウマい、女の子が明るくてカワイイなど、いろんな要因はあると思うけど、基本的にはタイ人の気安さにその原因はあるのだと思う。外国人に対しても彼らはサヌックでサバーイの妨げになるようなことはしてこないのだ。
 しかし、タイ人と付き合いが長くなってくると、いろいろと目につかなかった影の面に気づいてくる………。一度は恋したタイだからこそ少しグチを言ったところで罪にはなるまい。ちょろっと観光に行ってタイはいいところだ、タイ人は優しい、といいところを褒め上げるのは簡単なことだ。しかしイヤな面を見つめることができて初めて他者と対等に人間同士の関わりができるのだ。そこまでゆくにはその他者との関係にそれなりの深い経験が必要である。僕自身が観察したことや本で読んだことをもとにタイ人の影の面をここでは語ってみたい………もちろんこれは自分の知る限りでの、自分にとってのタイだということをはじめにに断っておく。

 単純なことで、ようするに彼らはサヌックでサバーイでない事態が大嫌いだ、ということである。………タイ人は苦悩するとか苦労するということが嫌なようだ。タイ人の、というより南国的なメンタリティなのかもしれないが、とにかく彼らは楽をしたがる。
 働かない、歩かない………僕の見るところ彼らは実際、汗をかくのをイヤがる。日本では額に汗することは美しいことであるが、タイではあまり肯定的な評価をされていないように見える。たとえば僕ら日本人や欧米人がつらい思いをして高い山に登山するのを見て、何でそんなことをするのかタイ人である僕の女房は理解できないと言っていた。おそらく大部分のタイ人もそう思うんじゃないだろうか。
 それに彼らは重かったり、暗かったりする精神状態が嫌いなようだ。明るく、軽く、いつも物事のいい面のみを見ていたいかのようだ。ブラックなジョークは通用しない。………何だってそんなことを言うんだ、とたしなめられてしまう。まるでそんなことを口にすると実際に悪いことが起こってしまうといわんばかりである。
 確かにサヌックでサバーイでいられればこんないいことはないだろう。しかし、この世の中いいことばかりでないのは明らかだ。楽天的………といってしまえばそれまでだが、人生のマイナスの面から顔を背けてしまう精神構造はどうかと思ってしまう。
 資本主義的な労働倫理が発展途上国ゆえに浸透していないのだ………。そうなんだだろうと思う。それはそれでいいことかもしれない。僕もタイ人を見て勤勉でない生活になにか救いのようなものを感じてきたのは事実だ。しかしタイ人はやはりとてもオイシイ思いをしたいのであって、しかもつらい思いをしないでオイシイ生活にありつきたいと思っているようなのだ。そこにタイ人特有のイージーな人間性が現れてくるのだと思う。はっきり言ってこのイージーさが僕は嫌いだ。タイ人はずるい。人間的に言って不潔であるとすら思う。(いや、もちろん一般論なんだけどね。)

 人間は基本的に何かを得るためには何かを犠牲にしなくてはならないはずだ。富を得るためには節約し、ケチにならなければ、つまり禁欲的にならなければならない。成功を手にするためにはリスクに賭けなければならない……つまり安定、安全という心休まる生活(すなわちサバーイ)を放棄しなければならないのだ。
 僕らは努力し、チャレンジすることで何かをつかむのであるはずだが、タイ人にはこの努力とか挑戦といったメンタリティがあまり見受けられない。したがって、タイ人の成功へのアプローチはいきおい途中がスッポリ抜け落ちたウサンクサイものになってしまう。彼らはきっと、宝くじや賭け事で幸運が転がり込んでくるようなものとして成功というものをイメージしているのだと思う。労せずして得られた幸運………。
 こんなガキッぽい、安易なメンタリティを持っているから、よくタイ人はだまされる。日本に行けば金になる、たったそれだけの情報で若い娘がのこのこと外国へ出て来て、自由を奪われ売春させられ、傷つき涙を流す。もちろん責められるべきは犯罪組織なのだろうが、タイ人にも責任の一端はあるのだ。うまい話には当然裏があると疑うべきなのにマイナス面をまったく見ようとしないのだ。リスクを考えないあまりにもイージーな発想………イヤ、これは民族性なのだ、きっと僕がタイに生まれたらやはりこういうイージーな人間になったのだ、彼らを責めることはできない。逆にタイ人から見れば日本人も許しがたい人間たちに見えるのだろう。言葉ではそう納得しているのだが………。

 結局、サヌックとサバーイというタイ人の哲学は、生の上っ面だけしか見ていない人生哲学なのだと思う。安楽さの中からは挑戦しようというメンタリティは生まれないと思う。チャレンジし、危険の中に身を乗り出して行きようとするなら、つまずいたり、苦しんだり、失敗したりすることは当然起こってしかるべきだ。そのような運命から顔を背けず、それこそ愛する人を受け入れるように(岡本太郎)つらい運命をも受け入れることが出来なくてはならない。
 光は影をともなうものだ。絵を描く人なら知っていると思うが、光を表現するためには影を描かなければならない。さらに光を強めるには影を濃く描かなければならないのだ。………それは人生の縮図でもある。光り輝くオイシイ面だけ得ようとするなんて虫がよすぎるじゃないか。
 ついでに言えば、逆もまた真なり、である。つまりあえて影を意志すること………タイ人がいやがる生の暗く重たい、つらい一面をあえて意志すること、むしろ僕がいつも考えているのはこちらのほうである。これは「祭り」の精神のあり方なのであって、逆説的ではあるが光への道なのだ。オイシイ結果だけをちゃっかりといただいてしまうような人生は案外ツマラナイんじゃないか。本当のところ安楽よりも、危険な闘いに生きるほうを僕らは望んでいるんじゃないのか。結果はともかくそのような生はドラマなのだ。

 タイは生温く霧に煙った居心地のいい低湿地ある。低湿地なりの苦労ってものもあるだろうが、基本的にその中に身をあずけていれば生きてゆくのは楽だ。僕はタイ人たちの気楽でこだわりのない力の抜けた生き方にとても感動した。日本で仕事をして疲れ、乾いた気分になっているとき、タイの空気が恋しかった。でも、いろいろタイ人とかかわり合わなければならなくなってから自分の目指す方向が変わってきたのを感じる。タイに影響を受けて、タイ人化してしまう人もいるだろうが、僕はやっぱりそうなるためには自意識過剰すぎるのだと思う。
 かといって日本がいいなんてこれっぽっちも思わない。それにどこかに理想の国があるなんて夢も抱いていない。あまりよその国の悪口を言うのは気持がいいものではないが、こうしてケチをつけることができるのは、タイがすでに僕にとってよその国ではなくなりつつあるからで、もはや自分の生きる現実になりはじめているからだと思う。新しい恋だっていつかは日常になるように、タイという国も僕には退屈で飽き飽きした日常になってしまったということだ。誰だって自分の日常の現実には飽き飽きしているものだ。だけれど、その飽き飽きした日常と正面から向かい合って取っ組み合うところからしか前に進む道も開けないのだ。
 低湿地を抜け出そう。ニーチェが言ってたように、高原の冷たく澄んだ空気の中で活動したい。この頃そう思っている。

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プロフィール

荒井賢 (Ken Arai)

 住所 埼玉県越谷市
 生年月日 1964年2月15日
 職業 アニメーション背景制作
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