泥沼通信

祭りの戦士 @ กลับมาจากกรุงเทพฯ

 

Category: 思想など   Tags: Thought  

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マルクスのイメージ

 マルクスを読まなければならないと思っている。……と何度も何度も執拗に自分に言い聞かせているのは、マルクスが僕のは肌に合わない思想家だったからだ。『資本論』の本を広げてみてよ。いろんな経済学の用語が出てきてタメ息が出ちゃうってものだよ。それだけじゃない。マルクスとか共産主義という言葉に付着するイメージ………それが僕はイヤだった。
 なんて言うんだろう………工場の機械油のにおいと言うか、労働運動………灰色っぽいデモや学生運動の光景(モノクロの映像で見たからかもしれないけど)。ヘルメットとマスク。アジ演説のあのしゃべり方。大学とかによく書いてある『〜闘争を〜自主管理〜帝国主義〜』とかいうあの字体。ソ連、中国、北朝鮮、人民服………。
 確かに民衆の力強いエネルギーのようなものがマルクスという言葉に付着している。しかしそれと共に労働という言葉にまつわる真面目で硬いどちらかと言えば息苦しいイメージもいっしょに持っていてそれがなんだかイヤだったのだ。
 僕は芸術家に憧れていた。芸術は自由と人間存在の神秘と栄光にダイレクトにつながっているように思っていた。だから労働とか賃上げ闘争だとかいう世俗的な活動は僕には無縁なものだったのだ。

 確か18歳の頃だったが、神田にある古本屋で『マルクス主義哲学入門』という古い本が100円で売られていた。どうせ100円なんだから………と思って軽い気持ちで買って読んだ。意外にも面白かった。世界史は階級闘争の歴史である………なるほど、今行われている労働運動の意味やマルクス主義者の目指すものがわかったような気がした。
 しかしこの本を書いた人(日本人だったけど名前は忘れた)の考え自体に問題があるのだろうけど、とにかくこの人は彼の言うところの弁証法的唯物論以外の哲学をブルジョワ思想だとしてケチョンケチョンにこき下ろしていた。
 当時僕が興味をもち始めていたニーチェとかハイデガーなんかも批判の槍玉にあがっていた。特にニーチェは凶暴な観念論だなんて書いてあった。そりゃちがうだろ!と芸術家志望の僕は、美や芸術に生の根本問題を見いだしているニーチェを気違い扱いしているのが許せなかった。
 一昔前、マルクス主義 VS 実存主義なんていう構図で思想が語られていた時代があったらしいが、明らかに僕は実存主義の側にいたってことだ。そもそもろくすっぽ働いたこともなく、マンガとSF小説なんかに夢中になっていた「オタク」な僕には労働運動とか階級闘争なんて言葉はピンとこなかったのだ。

 二十代も半ばにさしかかった頃、思想史家、今村仁司の本を読むようになった。「生産主義的理性」とか「生産中心主義」なんていう言葉が僕のアンテナに引っかかってきた。今村の書物が新鮮だったのは、マルクスの研究から彼の仕事を始めているにも関わらず、マルクスと同じ地平においてニーチェやバタイユ、ハイデガーなどについても語っていることだった。そこにはマルクス主義 VS 実存主義という月並みな図式がなかった。マルクスの活動とともにハイデガーの哲学を「生産主義的理性」の批判として読むという視点や、バタイユの普遍経済論をマルクスの剰余価値論の拡張として読むことができるという発想に、正直僕は驚いた。難しくて数ページで読むのを断念したハイデガーも、そう言われるとわかったような気がしたから不思議だった。
 が、とにかく若い頃読んだ『マルクス主義哲学入門』の通俗的な理解とは違う新しい相貌でマルクスが僕の前に現れたのだ。「生産主義的理性」の批判とはすなわち近代の批判である。近代のはらむ諸問題、その解決のためにはまず近代を底で支える「生産主義的理性」のあり方を批判しなければならない。ニーチェやバタイユやハイデガーとともに、マルクスの思考の中にはすでに「生産主義的理性」批判の契機が含まれている、という読み方を今村仁司はしていた。
 こうして僕はニーチェやバタイユと同じ地平でマルクスを問題にできる視点を得ることができた。

 その後、小倉利丸やシチュアシオニストへと読み進めてわかったのは、モダンアートをマルクス的観点から理解することの有効性と新鮮さだった。アバンギャルド芸術を、資本主義社会におけるその意味合いという面から考え直させてくれた。
 したがって僕にとってのマルクスのイメージは10代の頃のそれとはまったく別のものになってしまった。実際マルクス主義で語られる諸概念(共産主義、唯物論、イデオロギー、権力、など)は、通俗的な理解はともかく含蓄が深いものが多い。いまや僕はこれらの概念を自家薬籠中のものとし、マルクス的な視点から自分の芸術論を展開したいと思っているのだ。

 実際、前衛的な左翼の運動というのは美術館や画廊の中にあるアートなんかよりはるかに芸術的である。以前、僕のサイトの「プロローグ」で少し触れておいたが、例えばイタリアのアウトノミアの運動は、はっきりいってアートである。もう一度紹介しておく。

 『(アウトノミア)<運動>において徐々に中心をしめるようになりフェリックス・ガタリ、ジル・ドゥルーズたちを注目させた側面は、次のようにまとめることができるかもしれない。他者に変化を要求すること………敵とぶつかること………を第一目標にしない、という「今日まで歴史を揺るがせた革命とはまったく異なる」(ガタリ)異例の運動のかたち。たとえ<運動>が他者と正面から衝突するとしても、それは副次的な問題にすぎない。<運動>はなによりもまず「自足」的だった。「自足的」とはいっても、必ずしも排他的、閉鎖的であるということと等しいのではない。<運動>自体が目的、すなわち「生の形式」(の実験)となるという意味で「自足的」なのである。手段と目的が分かれることのない、スピノザ的な「構成的実践」。<運動>は一種の実験の場となった。われわれの生がどのようなものでありうるのか、われわれの身体がなにをなしうるのか、その可能性の自由な展開が試されるような場。その意味で<運動>は本質的に肯定的なものである。敵があるとしたら、それは生の形式の実験を拒んだり、あの手この手で骨抜きにしたり、ときには荒っぽく抑圧してくる力や人間ということになるだろう。だがそれは<運動>の意義からして二次的なものにすぎない。すくなくとも<運動>の主要な傾向は、なにかイシューがないと、敵がいないと………逆にいえば被抑圧者がいないと、「不幸」がどこかにないと………闘えない、こうした否定的/反応的な論理(これはスラヴォイ・ジジェクがPCの論理としたものにつながるだろう。社会が悪くないと………抑圧される「マイノリティ」がいないと………自分の存在理由を失ってしまうからつねに強迫的に「悪」を見いださざるをえない疚しい良心)とは無縁であろうとした。………』(酒井隆史『自由論』)

 以前、この政治的な<運動>が、いかに僕の考える芸術の新しいあり方に合致するかを示したくてこの文章を引用した。だがここでは後半部のニーチェ的な文章に注目していただきたい。ニーチェは社会主義運動をルサンチマンによるものだと、ことあるごとに批判していた。ニーチェの論理に従うなら、マルクス主義はキリスト教運動の帰結であり典型的なデカダンであるということになるはずだ。「今日まで歴史を揺るがせた革命」のあり方、ここでいう「被抑圧者がいないと、「不幸」がどこかにないと………闘えない、こうした否定的/反応的な論理」………これはルサンチマンから発しているとニーチェなら述べるに違いない。しかしこの<運動>がそのような論理と無縁であり「本質的に肯定的なものである」とするならまさにこの<運動>はむしろニーチェのいうところの高貴な存在のあり方を体現している、といっていいのではないだろうか。
 「祭り」の精神とはこのように肯定的な精神のあり方のことだ。19世紀末にニーチェが語っていたことと、アウトノミアという現在的な左翼の運動が意外にも見事に響きあっている。僕の中ではニーチェとマルクスは共存しているのだ。なぜならどちらも近代社会が失っている「祭り」の精神の奪回を目指しているからだ。

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荒井賢 (Ken Arai)

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 生年月日 1964年2月15日
 職業 アニメーション背景制作
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