泥沼通信

祭りの戦士 @ กลับมาจากกรุงเทพฯ

 

Category: 思想など   Tags: 思想  

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ブックマーク 2 『「ニート」って言うな!』

 評判の『「ニート」って言うな!』という本を図書館で手に入れボチボチ読み始めています。とりあえず本田由紀さんのところを読み終えました。
 本田さんは、ニート言説に顕著ないわゆる俗流若者論を、現行制度の不備から生じた問題であるにもかかわらず、その原因を若者たちになすりつけるものだと批判し、制度を設計し直す方向で問題を解決すべきだと提言しているわけです。その通りだと思うし、もし私が若年無業者の立場にあるとすれば、きっとこのような制度改革の恩恵を受けたいと思うに違いありません。したがって本田さんの試みを基本的に支持したいと思いますが、私が物足りなく思うのは資本主義に対するラジカルなアプローチがほとんど見いだせないことです。この本の本田さんの文章を読む限り、資本がシステムを拡大再生産するために、労働者を積極的かつ自発的に労働市場に参入させ、その労働者から最大の労働パフォーマンスを引き出すために利用され尽くしている労働市場における競争を本田さんはわりと無条件に肯定しているように見えるのです。もっとも今現在働けないでいる人はとにかく食ってゆかねばならないという差し迫った問題を抱えているわけですから、まず働けるように様々な形でケアされるべきでしょう。そのような制度的対策の必要性を強調するために、本田さんは資本が私たちにおしつけてくる規範に抵抗する作業についてはあえて伏せている、ということも考えられますが…。
 またそれゆえに、ニートに関する評価の仕方も私とは違うように思います。本田さんは若年無業者が生み出されるのは現行制度に原因があるのであり、どちらかといえば制度改革によってニート問題そのものを消滅させるべきだ考えているようにも見えます。それに対して私が考えてきたのは、ある人が働いていようが働いていまいがその存在をそのまま認めよう、ということです。もちろんニートの存在を認めようが認めまいが、まず労働市場に参加し、食ってゆけないことにはどうしようもない…ということができるわけで、それだけに私も本田さんの試みを支持するのですが……祭りの戦士のミッション(役割)は少し違うところにあります。

 「働こうと思えば働ける」という制度的環境整備と、「働かなくても蔑視されない」という規範的環境整備(Freezing Point)

 ここで問題になっているのは変革における制度と規範=意識の問題です。私自身も何度か述べてきたことですが、この二つは手を取り合い、お互いを支え合いながらながら進まなければ意味がありません。上山さんがおっしゃっているのはこれらが一面的に行われることの危険性で、本田さんの制度設計の試みは、このままでは現行システムを強化する役割を果たしかねない面がある……ということだと思います。
 本田さん自身の考えをこの本の文章からのみ判断することはできないだろうという保留をした上で言いますが、

『「ニート」って言うな!』本田パートは、「就労しようと思っても、制度的・構造的理由によってできない」という若年就労の問題点を強調するため、「無業者のすべてに就労意欲がないわけではない」というのだが――それ自体は事実だし、重要な強調だと思う――、その結果、(おそらくは意図せずに)「働く意欲を持つのは当然である」という規範意識を追認している

……という上山さんの感想を私も共有しました。教育の職業的意義を高め、差別のない就業制度を作るという提案を読んでいると、これは資本のためににフレキシブルで即戦力になりうる労働力を準備する制度なのではないかとすら思えてきます。ようするに平等に市場における競争に参加し、しのぎを削り合うべし……という弁ともとれるし、そのように働きうる言説であるとも言えます。
 が、あくまでも私の攻撃の標的は資本主義的な社会関係(一つの物差しによる競争)と資本が私たちに求める規範意識(働け!)です。そのポイントをはずしてしまってはせっかくの制度改革も逆に資本に都合よく利用され、私たち自身の自律もありえないでしょう。上でも述べた通り、本田さんの制度設計の試みを私は基本的に支持したいと思いますが、それは上山さんのおっしゃるところの規範的環境整備がともなってこそ活かされるものでしょう。
 役割という言い方をするなら祭りの戦士の役割は、この規範的環境整備のことだと言い換えることができそうです。で、この規範的環境整備をどのように行うべきかと言えば(上山さんは規範的環境整備について具体的に語っていないようですが…)、資本が私たちを従属させようと押しつけてくる規範(=「働く意欲を持つのは当然である」)に対抗的な価値を主張し、身をもってその自律的でオルタナティブな価値を生きることで、社会の中に広めてゆく以外に方法はありません。私が若い頃から関心を持ち、その意義を強調したいのはこのような規範的環境整備の役割を果たすことでした。また、私が働かず役に立たないニートを社会のクズのように扱うことに抵抗をおぼえるのもこのポイントからです。

 それだけに「若者の心に触ってはならない」としてみずからのミッションを制度的環境整備に限定している……という本田さんの姿勢の意味するところが私にはピンとこないのです。想像するに、これは本田さんが私などとは違って、制度の設計に現実的にたずさわることができ、若者の心に(上から)何らかの影響を及ぼしうる(権力的な)立場にいるからこそ生まれた発言(自戒)ではないでしょうか。現行の政治システムの枠組みの中で差し迫った問題に対して制度改革にたずさわろうとすれば、力が必要であり、専門的な能力や知識とともに、このようなある種の特権的な位置に立って(つまり役割分担して)活動せざるを得ないということでしょう。
 それに対して規範的環境整備のほうは、それ相応の覚悟さえあれば(というのも社会の求める規範と対立することになるわけですから、社会から何らかのしっぺ返しを受けることになるはずです。)誰にでもできることだし、社会を動かす何らかの力を必要としません。むしろ無力であることを意志するものですらあります。したがって本田さんのような自戒の念をもつ理由すらわからないわけです。
 このように制度的環境整備と規範的環境整備とはずいぶん性質を異にする活動です。現行の政治の枠組みの中で制度を改革することは、冷徹に結果を求めるきわめて真剣な行動であり労働です。一方、資本の求める規範に対抗することは、生産に向けて組織された生真面目な計算の体系からはみだす、無意味で無目的な浪費的な活動……すなわち危険な遊びの形をとるはずです。(私は規範的環境整備を役割であると書きましたが、厳密に考えれば無目的であろうとすれば、役割などそもそも問題にならないはずです。が、事後的・結果的にそれは役割であったと認識することはできるでしょう。つまり規範的環境整備は役割を消滅させる指向をもつ役割とでも言っておきましょう。)とすればこのような二種類の異なった環境整備の要請をひとりの人間の中に混在させるのは難しいのかもしれません。ここにジレンマが生じるということかと思います。
 私の見るところ、制度的環境整備をおこなう立場の本田さんが避けるべきなのは「若者の心に触ること」そのものではなく、上から規範を押し付けたり、啓蒙しようとしたりすること、操作的に若者の心をいじったりすること……すなわち権力的に若者の心に触れようとすること…ではないかと思います。当然ながらある人が生きているその姿はひとつのメッセージです。例えばあえて言葉で語らなくても本田さんが新たな制度設計のために日々奮闘しているその姿は、現行体制への憤りのメッセージとして若者の心に何かを訴えかけるかもしれません。しかしそれは決して上からの押しつけ的なメッセージ(教化・洗脳)にはなっていません。それが若者になにがしかの影響を与えたとすれば、そこには(上ー下のではなく横の)交流があったということです。

Comments
 
araiさん、自己責任論もどきをやってるヒトがほかにもいますよ、なんか言ってやってくださいな。
>http://kblog.bblog.jp/entry/299115/
 
やっぱりそういう文脈で捉えていたか。誤読も甚しいな。

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プロフィール

荒井賢 (Ken Arai)

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 職業 アニメーション背景制作
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