泥沼通信

祭りの戦士 @ กลับมาจากกรุงเทพฯ

 

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観客( audience )と観客( spectator )

 アーティストや批評家が自分や他人の仕事を「表現」とか「表現活動」とか言っているのを聞いてて、ずっと違和感を感じていた。だって単純に生きていることがそのまますべからく「表現活動」に他ならないじゃん、と思うから。沈黙や不器用さだって雄弁なコミュニケーションであるのに、コミュニケーションスキルが高いとか低いとか言ってるのと同じ浅はかさを感じるのだ。なのになぜ芸術活動をあえて「表現」なんて言い換えるのだろう?
 私が思うに、ある人が自分の活動を「表現」と規定することは、日常的な生から自分の活動を聖別し、権力に裏打ちされた公式文化の世界(芸術のマーケット、評論界、芸術大学、美術館や劇場などの箱物、なんとかビエンナーレなどの芸術展などからなるいわゆるアートワールド)にアクセスしていると宣言することではないだろうか。そのときはじめてその人はアーティストと言う名の「表現の専門家=演者( acter )」となるのだ。厳密に言えばアーティストのアイデンティティは、根源的な「生=表現」が、芸術の「表現活動」とそれ以外の「日常」へと分割するとともに生じている、ということになるだろう。また、この「表現活動」なるものがホンチャンの活動として浮上するとともに、それ以外の活動は「地」として背景に退き、弛緩した創造性なき領域(日常性)へと変貌させられるのである。またその分割は同時に自分の活動に触れる人々が一方向的、非対称的なコミュニケーション関係、すなわち「観客( audience )」であることを無意識的に要請する。
 誤解のないように言っておくが、表現活動以外の領域が創造性なき日常へと弛緩し、アーティスト(表現者)以外の人々が観客となり受動的な存在に変貌すると言っても、たとえば現実の一般大衆が非創造的な存在になってしまうわけではなくて、あくまでもそうみなしたいのはアートワールドに血液を供給し続ける「権力」であり、その公式文化のヒエラルキーの一角を占めたいと欲する(権力の創りだすプラットフォームに参入し、権力の視線に同一化した)アーティスト(表現者)の意識である。
 こうした芸術家を巡る関係性は、近代以前のヨーロッパの公式(高級)文化の特徴でもあった。芸術家は王侯貴族や教会の権力に奉仕し、それによってヒエラルキーの一角を占め、一般民衆から卓越する意識を持った。かつて支配階級の権力を誇示するものであった公式(高級)文化=芸術はブルジョワの時代になって長い時間をかけて編成し直され、大衆を疎外の中に繋ぎ止め体制を維持するための文化装置に姿を変えたが、芸術家は今でも資本という権力の視線を内面に取り込むことで、自らを創造的な表現者として大衆から卓越する意識を持つという点では変わっていない。芸術家は結局権力の侍女なのだ。
 アートワールドに参入するということは、権力の紡ぎだした支配的なイメージ(スペクタクル)を受け入れることにほかならない。ドゥボールの『スペクタクルの社会』に出てくる有名な断章に「観客( spectator )」という言葉が出てくる。このスペクタクルに見入る観客という概念は、疎外の極致を戯絵的に描き出したものであって、先ほどの「観客( audience )」とは意味が違うことに注意してほしい。

 凝視される対象に対する観客の疎外は次のように言い表される。観客が凝視すればするほど、観客の生は貧しくなり、観客の欲求を表す支配的なイメージのなかに観客が己れの姿を認めることを受け入れれば受け入れるほど、観客は自分の実存と自分の欲望がますます理解できなくなる。


 逆説的に聞こえるだろうが、アーティスト(表現者)はまさにドゥボールの言う意味での「観客( spectator )」なのである。「観客( audience )」を持つ表現者「演者( acter )」であろうとすることは、生を貧しくし、自分の実存と自分の欲望がますます理解できなくしているのだ。

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プロフィール

荒井賢 (Ken Arai)

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